時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「パタゴニアの冬の楽しみ」

パタゴニアは一年で一番寒い季節になりました。よく日本の方から「そちらの冬
は北海道みたいなの?」と聞かれます。私は道東の標茶での酪農実習と、札幌の
農業専門学校での寮生活の経験がありますが、ここの冬はそのどちらとも違いま
す。

一番違うのは、一口に冬と言っても、窓ガラスも凍るような寒い日があるかと思
えば、翌週は「これで冬?」と感じるような暖かい日になったりして変化が激し
すぎることです。

雪は時々降りますが、根雪になることは余りありません。大雪が降って、屋根の
雪下ろしをしなければ心配な時も何年に一度かはありますが、「雪国?」と聞か
れれば「違います」と答えます。

ここ数年の傾向として真冬は快晴で寒い日が多く、春先にどか雪が降ります。寒
いと言っても最低気温がマイナス8度程度ですから、北海道のマイナス20度を
経験している私としては寒さが厳しいとはあまり思えません。

さて、冬は私の好きな季節です。日本にいる頃は好きよりも嫌いの気持ちの方が
大きかったのですが、パタゴニアに暮らし始めてから冬がとても好きになりまし
た。パタゴニアの冬というよりも、のうじょう真人での冬の暮らしと言った方が
正しいかもしれません。

我が家ではマイナス以下の日が続くと、水タンクが凍って割れる心配があるので
水を出し切って空にします。当然蛇口から水は出なくなるので、外の水桶に貯め
た雨水を使います。常時薪ストーブでお湯を沸かしておき、それを食器洗い、洗
濯、掃除に使います。蛇口から水が出ないのは多少不便ですが、絶対無ければ困
るという程のものではありません。日本の時代劇で、かまどで料理し、柄杓で水
を汲んで使う場面を「素敵な暮らしだなあ」と羨ましく見ていたので、それに近
づいた様で嬉しい気がします。

朝は外の水桶に厚く張った氷を金槌で叩いて割ります。その時の手ごたえが好き
です。

犬たちと歩く霜柱の道の音と感触は楽しくて、子供の頃を思い出します。

凍った窓ガラスの美しい模様。天然シャーベットのローズヒップの実の美味し
さ。

薪ストーブの燃える音と炎の暖かさ。その灰の中で焼いた芋の熱々の甘さ。そし
て周りで丸くなる猫たちの幸せそうな姿。

雪の上の犬や野うさぎの足跡の可愛らしさ。アンデス山脈の雪が朝日に輝いてオ
レンジ色に染まる一瞬の美しさ。

溶け始めた霜が日に当たり七色に光る光景は、自分ひとりで見るのが惜しい程綺
麗です。

寝るのが大好きな私は、長い暗い夜さえ気に入っています。

のうじょう真人は春も夏も秋も楽しいですが、冬もまた特別素敵なのです。

                                                                        • -

写真解説

少し見にくいかもしれませんが、2種類の足跡が映っています。一つは野うさぎ、もぅ一つは多分プーマではないかと思います。
実物を見たことはないのですが、アンデス山脈の奥では時々見かけるそうです。ちなみにこの写真はマジン村奥のペリートモレノ岳で撮影したものです。