時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

のうじょう真人の春一番

(今年も来てくれるかな?)
7月も半ばを過ぎると、私は期待に胸膨らませ21日を待ちます。その日が雨でも、雪でも、暖かな陽気でも、身を切る様な寒さでも、ほぼ間違いなく「のうじょう真人」を訪れるMallin(マジン)村の渡り鳥、Terro(テロ)。
“マジン村の”と言うのは、この鳥、15キロ先、標高400メートルのEl Bolson(エルボルソン)の町には1年中いるのです。それが、7月21日、遅れても2~3日の間には「キル、ケル、キルルー」甲高い声で鳴きながら、2,3羽で連れだって標高500メートルのこの村に渡って来るのです。
今年も21日の夕方、東の町の方からテロ達の声が近づいて来ました。
「凄い!今年もちゃんと21日に来た!」
暦の上では大寒。でもテロの声は私の心に春を運んできます。
「キル、カル、ケルルー」と高い声で鳴きながら上空を飛んでいく姿や、天和(てんほう)や白(ぱく)をからかうように畑の真ん中で羽根休みをしている姿は、私をいつも明るい気持ちにさせてくれます。
年々、自然破壊が進み、森が大ホップ農場に変わり、木が切られ、あちこちに家が建ち、車道が広げられていくマジン村。変わっていくこの村をテロ達はどんな思いで見ているのでしょうか。
「ありがとうね。今年も来てくれてありがとう。一緒に春を迎えようね。」
そんな私のつぶやきを聞いているのか、いないのか、テロは、悠々とのうじょう真人の上を横切って行きます。