時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「みたされる心」

雨や曇りでぐずぐずした天気が続いていましたが、ここ数日秋晴れです。曇り空の下では、今年は山も里も紅葉が冴えないなあと思っていましたが、なんのなんの、今は青い空にアンデスの山の紅葉がくっきり浮かびとても綺麗です。里はポプラや柳やブナやリンゴなどの果樹が黄色く輝いて、パタゴニアの秋を彩っています。
今夏は雨が多く、例年よりも大地に湿気があったのか、キクイモが2メートル以上伸び、小さいですが花が咲きました。キクイモはこちらではトピナンブルと呼ばれており、我が家ではあちこちで増え自生しています。とても強い植物ですが、寒く乾燥気味の我が家で花が咲いたのは20年のうち3回か4回くらいです。
このキクイモ、何もせずにどんどん増えてくれるのは有り難いのですが、正直主食となるものではありません。それはとても癖があり、煮ても焼いても炒めても揚げても茹でても生でもあまり美味しいとは思えません。しかも食べるとお腹にガスがたまり、それが気持ちよく出てくれたらまだ許せるのですが、何時迄もお腹の中に留まっているので、結構苦しいものがあります。
けれども1年以上味噌に漬けておくと、そのガス問題も無くなり、キクイモの甘みと味噌の味が絡み合って、べっ甲色のそれはそれは美味しいお漬物が出来るのです。
この時期は収穫した乾燥そら豆で味噌を仕込みますが、同時に少し干して水分を取ったキクイモを底に漬け込みます。
このキクイモ漬けはそのまま頂いても美味しいですが、私はくるみと向日葵の種と黒ごまとネギと生姜とキクイモ漬けを全てみじん切りにしたものに、少量の黒砂糖、時に白ワインを入れ、それらを完熟味噌に混ぜ合わせ「NAMEMISO」なる物を作って楽しんでいます。
この「NAMEMISO」。ご飯にもパンにもよく合い、友人にも結構人気があります。
そしてこの時期は梅干しの天日干しの時期でもあります。梅は気候的に育たないので、プラムで作る梅干もどきです。ただプラムの収穫が夏。作り方は梅干と同じですが、水分が上がってそれから干す時期になると、秋の雨の多い時期にかかってしまいます。今年は天気が悪く、晴れの日が3日と続かなかったので、天日干しが出来ないかとやきもきしましたが、今週は快晴が続き、結構良い感じに仕上がりました。
収穫時期も良かったのか、味も口当たりも私には最高の出来に思えます。でもまあ、味音痴の私の言うことですから、自画自賛で「NAMEMISO」も梅干もどきも、美味しいと言ってくれる少数の友人と自分だけで楽しむ事にします。
旅行したり、登山したり、何かの行事に参加したり、誰かに会いに行ったり、外に向かって行動する事が無くなりました。でもこうして自分なりの暮らしのリズムの中で過ごせる事を、とても幸せだと感じます。
私は私らしく居ることしか出来ないと気づきました。私らしく居れば、例えどんなに時間が掛かっても、私らしさを受け入れ慕ってくれ、見つめる方向が同じの人達が集まってくると信じています。それをドキドキワクワクしながら思う事ができます。
秋の光の中で、自然の恵みを口にして、今までいろんな人達に支えられ、助けられて来たんだなあと感謝の気持ちで一杯になっています。
そんな穏やかな気持ちにさせてくれるパタゴニアの秋。今を大切にしたいです。


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