時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「今年の梅干。ギトギト。」

お久しぶりです。
この1ヶ月パタゴニアから離れていました。
帰ってみると此処はすっかり秋の気配に包まれていました。アンデスの山の紅葉も始まりました。今年は果樹が大豊作で、木から落ちた林檎の実が拾い切れずに地面にゴロゴロ転がっています。
雨の降らないカラカラの夏でしたが、ここ一週間どんよりと曇って肌寒い日が続いています。
昨年、我が家では果樹の収穫がなく、町の友人から皮が固くて小さいので誰も食べないすももを貰い梅干しもどきを作りました。それがまあなんと、すごく美味しくできたのです。
最近の日本食ブームで、梅干し好きのアルゼンチン人も増え、町の自然食品の店でも売っています。でもそれがなかなか高く、一粒ずつバラ売りをしているのです。
いじましい私は、自分の家のすももを使って梅干しもどきを作り、「地元の手作り梅干し」としてそのお店に売り込みに行こうと目論みました。
幸い今年は大豊作。大きくて美味しいすももがわんさか実りました。
熟す前の実を丁寧にもぎ取り、昨年と同じ方法で梅干を20Kgほど仕込みました。実も大きく、見た目も去年より貫禄があります。
取らぬ狸の皮算用ではありませんが、私の梅干しもどきが此処で大ヒットしてへそくりくらいできるかも…と楽しみにしていました。
ところが本来なら夏の乾燥した時期に三日三晩天日干しをするのですが、それが出来ないまま1ヶ月以上事情があってパタゴニアを離れることになってしまいました。
さて、帰ってきて見たら、梅干しもどきをいれた容器の周りにはショウキョウバエが集まっているではありませんか。
嫌な予感。
かぶせてあった布を取ると、梅酢が上まで上がっておらず、上の方の実には黴が生えてしまっています。
ごっそりと上の実を捨ててみたものの、残った実も灰色がかった薄緑色で不味そうです。天日干しをすると美味しそうな梅干し色、赤色に変わるので、早速取り出してザルに入れ外に出しましたが、空はどんよりとした曇りが続いています。2日目の今日は雨さえ降りそうです。
実もバサバサとして梅干しのぷにょぷにょ感が全くありません。
まだまだ干しきれない果実が容器にいっぱい入っています。
「食べ物は捨てない」が信条の私ですが、味見をしてみて、この梅干しもどきを前に途方に暮れています。
そして私は学びました。
私は梅干を楽しんで作らなかった。喜んで貰うことよりも、お金を儲けるというギトギトした気持ちで頭が一杯だった。そんな貧しい心で作った物が美味しく出来る筈がなかったのです。
折角実ってくれたすももにも申し訳ない気持ちです。
何でも楽しんでやろう。感謝してやろう。
ここへ来たばかりの頃のそんな純粋な気持ちをもう一度しっかり思いだそうと反省しました。