時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「抱きしめられた。安心で優しい感覚。」

12月、パタゴニアは花で飾られ華やかな季節です。今年は春先まで雨が多かったせいもあり、例年よりも花が大きく緑が濃い気がします。
今はバラの最盛期。街でも農場でもバラの花が目立ち、良い香りが漂います。農場では緑の草の中に、野菊の白、ゲンノショウコウの赤、ケシの橙、金浦花の黄が見え隠れしています。
日当たりの良い場所ではローズヒップも咲き始めました。けれども圧巻なのは、ルピナス(登り藤)の花々です。桃、白、紫、青とそれらが微妙に混ざり合ったなんとも言えない色の花が空に登って行く様に咲いています。
以前はマジンの周遊道や国道脇を所狭しと咲いていたのですが、ここ数年でめっきり数が減り、代わりにエニシダの燃えるような黄色の花に変わっていました。それが今年は一気にその数を増やしてくれました。丈も私の身長ほどもあり、株も花も大きく、久しぶりのルピナスの花畑が農場の中に広がっています。
若い頃は旅行や登山が大好きで、時間を見つけてしょっ中出掛けていました。でも今は農場で犬たちと過ごす時間の方がずっと有意義で楽しく感じて、豆腐の配達や日本語教室で週二回街に行くだけで十分だと思っていました。特に初夏のこの季節は薪の準備や畑仕事など外仕事が多く、泊まりでどこかへ出掛けることなんてありませんでした。
ところが今年は止むに止まれぬ事情で11月末から3週間、パタゴニアを遠く離れていました。
精神的には充実していましたが、体力的にはきつく、パタゴニアに帰り着いても、耳鳴りがして、大地がゆらゆら揺れている様な、スポンジの上を歩いている様な頼りない感覚がありました。
けれども、ぼーっとしながら農場に着いて車を降りると、いきなり農場の緑に抱き締められました。ずっと暮らして来た場所なのに、それは当たり前の風景では無く、初めて出会った場所の様でした。
たった3週間の間に草は伸び、木々の葉は深く生い茂り、花が咲き誇っていました。育って行く過程を見なかっただけで、別の世界へ突然来てしまった様な不思議な感覚が体を包みました。
草を刈らない、木を選定しない、花壇を作らない、移植しない、間引きしない、自然に任せ自然に寄り沿って行くと、自然はこんなにも人を優しく包み込み、抱きしめてくれるんだと分かりました。深く深く息が出来ました。
私のいるべき場所を見つけられた。私を大切に包み込んでくれる場所があった。
人は千差万別。時々は思うだけでイラつき、情けなくなり、不安になる相手もいます。場所だって同じ。何が正しく何が間違いかと言うことではありません。でもこんな混沌とした世の中でも、必ず自分の場所があるんだと気付きました。
私も自然の一部なんです。だから私を抱きしめてくれた自然を、私も抱きしめていきたいと思います。


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12月、パタゴニアは花で飾られ華やかな季節です。今年は春先まで雨が多かったせいもあり、例年よりも花が大きく緑が濃い気がします。
今はバラの最盛期。街でも農場でもバラの花が目立ち、良い香りが漂います。農場では緑の草の中に、野菊の白、ゲンノショウコウの赤、ケシの橙、金浦花の黄が見え隠れしています。
日当たりの良い場所ではローズヒップも咲き始めました。けれども圧巻なのは、ルピナス(登り藤)の花々です。桃、白、紫、青とそれらが微妙に混ざり合ったなんとも言えない色の花が空に登って行く様に咲いています。
以前はマジンの周遊道や国道脇を所狭しと咲いていたのですが、ここ数年でめっきり数が減り、代わりにエニシダの燃えるような黄色の花に変わっていました。それが今年は一気にその数を増やしてくれました。丈も私の身長ほどもあり、株も花も大きく、久しぶりのルピナスの花畑が農場の中に広がっています。
若い頃は旅行や登山が大好きで、時間を見つけてしょっ中出掛けていました。でも今は農場で犬たちと過ごす時間の方がずっと有意義で楽しく感じて、豆腐の配達や日本語教室で週二回街に行くだけで十分だと思っていました。特に初夏のこの季節は薪の準備や畑仕事など外仕事が多く、泊まりでどこかへ出掛けることなんてありませんでした。
ところが今年は止むに止まれぬ事情で11月末から3週間、パタゴニアを遠く離れていました。
精神的には充実していましたが、体力的にはきつく、パタゴニアに帰り着いても、耳鳴りがして、大地がゆらゆら揺れている様な、スポンジの上を歩いている様な頼りない感覚がありました。
けれども、ぼーっとしながら農場に着いて車を降りると、いきなり農場の緑に抱き締められました。ずっと暮らして来た場所なのに、それは当たり前の風景では無く、初めて出会った場所の様でした。
たった3週間の間に草は伸び、木々の葉は深く生い茂り、花が咲き誇っていました。育って行く過程を見なかっただけで、別の世界へ突然来てしまった様な不思議な感覚が体を包みました。
草を刈らない、木を選定しない、花壇を作らない、移植しない、間引きしない、自然に任せ自然に寄り沿って行くと、自然はこんなにも人を優しく包み込み、抱きしめてくれるんだと分かりました。深く深く息が出来ました。
私のいるべき場所を見つけられた。私を大切に包み込んでくれる場所があった。
人は千差万別。時々は思うだけでイラつき、情けなくなり、不安になる相手もいます。場所だって同じ。何が正しく何が間違いかと言うことではありません。でもこんな混沌とした世の中でも、必ず自分の場所があるんだと気付きました。
私も自然の一部なんです。だから私を抱きしめてくれた自然を、私も抱きしめていきたいと思います。


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