時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「成長」


私の駄目なところ。
「そんなの一杯あって今更…。」と言う声が聞こえてきそうですが、そんな中の一つに一緒に暮らしている草花の名前を全然覚えない事があります。
今、玄関を出ると壁に沿って屋根まで伸びているつる性の名前も知らない木の花が満開です。花の香りにも色々ありますが、これは農場で私が一番好きな香りです。以前は毎朝玄関を出ると、辺り一面がこの優しい甘い香りに包まれていました。特に早朝によく香りました。ところがここ数年香りが少なくなっています。玄関を出ても以前ほど香りませんし、日中は花が咲いているのを忘れるほど何も感じません。これは木が枯れてしまったのではなく、その反対に大きく成長したからです。引っ越してきた20年前は、私よりチビさんでした。それが何の手入れもしないで(しなかったからこそ)ぐんぐん成長し、今年は屋根の上半分まで伸びています。朝冷たい空気の中深呼吸すると、突然ぶわんと香りに包まれ驚く事があります。そんな時はきっと屋根の上はこの香りに満ちているのでしょう。
快晴の日中は30度近くまで気温が上がり、強烈な直射日光の中、さぞかし暑いだろうと思うのですが、それでも前へ前へ、上へ上へと伸びて行く力。そんな姿を見ると、勝手に人間に植えられたけど、決して人間を喜ばせる為に生きているのでは無いと感動します。
誰かに認めてもらいたい?誰かに褒めてもらいたい?誰かに理解してもらいたい?誰かに慰めてもらいたい?
そんなちっぽけなつまんない事考えるのは、私の様な弱い人間のする事。
ただ今を生きる。真っ直ぐ生きる。それだけ。
花が終わると小さな赤い実をつけます。それをついばみに小鳥がやってきます。一緒に過ごせる幸せと楽しみは秋まで続きます。