時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「適時適所」

3月も終わりに近づき、パタゴニアに吹く風はすっかり冷たくなってきました。朝は気温が4度という日も多くなり、日の出も日に日に遅くなってきています。
今までは朝7時が犬達の朝ごはんの時間で、それから見回りを兼ねて農場内を散歩していましたが、今その時間はまだ暗く、8時近くにやっと「そろそろ明るくなったからご飯にするか」という様に変わってきています。これからどんどん日の出も遅くなり夜が長くなっていきます。
暦の上でも夏から秋に変わりました。
今夏は相変わらず雨が降らず乾燥していましたが、昨年の様に山火事が多く無かったので気分的には落ち着いていました。
本来なら農場にキノコの出る季節ですが、林の乾燥具合を見るととてもキノコが出る様には思えません。もしかしたら今年はキノコは出ないかもしれません。
キノコ狩りは出来そうもありませんが、りんごが色付き収穫期も近づいてきました。
エルボルソン近辺はりんごの産地です。齧ったりんごをポイっと捨てると、そこから芽を出し数年後には実をつけます。我が家もそういったりんごの木が沢山あります。放りっぱなしで剪定も摘果もしませんから、びっしりなった実は驚くほど小さいです。でも私はそれで良いと思います。
好きな様にのびのび育っていった実は、何ものにも変えがたい力が宿っていると思えます。風で落ちた実を拾うのが秋の楽しい日課です。
食事療法をしている関係で、以前の様にりんごでジャムやジュース、お菓子を作ったり、お腹を壊すほど毎日食べる事は出来ませんから、さて、今年はどうしようか?と思案中です。
来訪してくれる友人の為にジャムを作り、非常食の干りんごを作ってもまだまだ余りそうです。
りんご酢を作れば良いのですが、雑な私の性格で、いつも黴たり変な発酵になって失敗しています。ここでは野生化したりんごが病気にもならず綺麗な実を付けています。りんごは強い木だと思い込んでいました。ヨーロッパに輸出用に栽培している場所は別ですが、ここでりんごに肥料を施したり、消毒している人はいません。ですから私はどうして日本でりんごに病気が多く、栽培にあんなに消毒が必要なのか不思議でした。でも最近、日本の土壌、気候はりんご栽培に向いていないという事を知りました。
そっか、日本のりんごはとても苦労しているんだ。可哀想だな。だったら無理してりんごを作らなくっても、日本に向いている果樹はいっぱいあるだろうに…。そんな事を言ったら、りんご農家の方に叱られるでしょうが、「無理しない、自然に任せる」という事がとても気分が良くて楽しい事だと分かったので仕方ありません。
我が家のりんご達。甘くて美味しいのは、別に私に食べられる為ではなく、多くの動物に食べてもらって、種を広範囲に運んでもらいたいからなんでしょう。だったら私も自然の法則に従って、そこら中にりんごの種を播こうと思います。何千何百という種の中から、適所に落ちた種だけがが適時に芽を出し大きく育っていくのです。
そんな自然の営みに参加出来るって、なんて幸せな事でしょう!