時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「匍匐前進」

駆け足すること。スッキプすること。自転車に乗ること。縄跳びをすること。上や周りの風景を見ながら歩くこと。手すりにつかまらず階段を降りること。幅の狭い所をはみ出ず真っ直ぐ歩くこと。重いものを持って体の重心が傾いてもよろめかないこと。下駄やかかとの高い靴を履くこと。飛び石を渡ること。
この5年に出来なくなったことです。
脊椎小脳変性症と言うのは残酷な病気です。人によって症状や進行は千差万別ですが、小脳や脊髄の萎縮により今まで当たり前に出来ていたことが、どんどん出来なくなります。

進行を抑えるだけで、完治する方法はまだ無いと治療にあたる病院の先生が言います。
闘病中で今は歩ける人が 「数年後に車椅子になることは覚悟している。」と言います。

でも私は「凄いね。立派な覚悟だね。」とは言えません。それは今歩けるのに、歩けなくなる事を前提にするのは寂しすぎるからです。
私も出来なくなったことは沢山あります。でもそれが何だい!いい気になりなさんな。と病気に向かって言い返します。治らないと最初から諦めている治療を受ける気にもなりません。

現実は厳しいです。でもそれを跳ね返す力があると自分を信じています。
だって、指を切っても、膝をぶつけて青あざが出来ても、いつの間にか傷は塞がり、青あざは消えているのです。私の体が自分で治しているのです。それって凄い事だと思います。良くやった、偉い!と褒めてあげたいです。

10月に日本に帰国した時、巡り会った人達から多くの事を学びました。大丈夫、自信を持てと教えられました。
今私が実践している事は、起床後と就寝前に、西式健康法の大気療法と金魚、毛管、合掌、背腹運動。平床寝台と硬枕。温冷浴。自然治癒力を高める朝食抜きの半日断食。生菜食の低カロリー食事療法(これは日本で直接指導を受けました)。毎朝千回の操体法の足踏みです。また統合医療のT先生が決まった時間に遠離気功を送って下さっています。
正直劇的な変化はありません。でも不安や諦めは全くありません。
今あるのが私。これが私。それなら背伸びせず今できる事をやっていけば良い。人と比べる必要なんか無いと思います。
毎朝足踏みの後、T先生に報告を兼ねて片足立ちをしています。この病気は平衡感覚がなくなっていくので、片足で立つ事が難しくなるのです。写真の様に、両手は下ろし、高さや角度は関係なしで片足を上げます。
普通の人の様に静止し、足が疲れるまで一点立ちをする事が出来ないので、あっちにフラフラおっとっと〜となりながらも、取り敢えず片足で踏ん張れる時間をタイマーで計っています。
以下がその記録の月平均です。

11月 右足 23・03 左足 54・46
12月 50・45 47・22
1月 53・11 60・16
2月 77・06 65・06 単位秒

調子の良い日と悪い日がありまだまだ安定していませんが、僅かでも確実に記録は伸びています。
「慣れと要領を覚えたからでしょうね。」と先生に書いたら、「それだって立派な事じゃ無いですか!」と返事を頂きました。
元に戻ろうとしなくても良いんだ。慣れと要領で病気と向き合っていけば良いんだと心が軽くなりました。
出来なくなった事を数えるよりも、出来る事を増やしていこうと決めました。これは私の一生の課題です。
みんながスタスタ歩いて行く道を私は匍匐前進でゆっくり進みます。それで良いと思います。大切なのは諦めないことだと思うからです。