時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「猪のいのさん一家」

7月 初めのことです。夜中に我が家の犬たちがわんわん騒ぎ、家の周りを走り回っていました。何だろうと不審には思いましたが、最近は隣人の牛や馬 が草を求めて我が家に侵入してくることも無くなっていたので、眠気と寒さに負けてそのまま眠ってしまいました。
翌朝その訳が分かりました。林の小道に無数の猪の足跡があったからです。水溜り ではその寒さに関わらず泥あびまでした形跡がありました。以前は我が家に野生のふくろうや野鴨、いたちや狐がやってきていましたが、周りの開 発で木が減り人が増えた為か、ここ数年は姿を見ていません。ですからそれが猪であっても、久しぶりの野生動物の訪問を嬉しく思いました。
ところがその日からほぼ連日、猪は夜中にやって来るようになりました。そして同 時に猪たちの土ほじくりの威勢が良くなり、種が落ちて芽を出していたソラマメや種芋用に土に残していた菊芋やジャガイモを掘り返され食べられ る被害も出てきました。
足跡から見て最初は子猪が2、3頭来ていたようですが、 それが成長したのか、または家族でやって来るようになったのか、足跡も大きく力強くなっていきました。
我が家の犬たちはと言うと、日に日に威嚇の威勢が落ちていくではありませんか。 きっと調子に乗って吠えている時に、猪に遭遇でもしてしまったのでしょう。夜中にどう見たって自分たちより大きくて強そうな闖入者に遭遇して しまったら、威嚇する気力も薄れようというもの。賢い選択だとほめてやりたくなりました。
そして・・・ある朝外に出てみてびっくり。家のすぐ脇の畑が見事に掘り返されて いるのです。今までは家から離れた場所でしか足跡を見なかったのですが。しかもその夜、我が家の犬たち、全くほえもせず走り回りもせず静か だったのです。
いやあ〜〜、猪のいのさん一家、ここまでズーズーしく成ったのか・・・と呆れて しまいました。パクも姫(我が家の犬たちの名前)もさぞ恐怖の一晩を過ごしたのだろうなあ・・・とかわいそうになりました。
私だってもし、いのさん一家に出会ってしまったら恐怖で凍りつくこと間違いなし です。実際野生の猪って危険ですから。
こんな住宅街になりつつあるところまで食べ物を求めてやってきたかと思うとかわ いそうな気もしますが、私たちはまだ、いのさん一家と食料を分け合えるほど豊かではありません。かと言って猟師よろしく鉄砲で撃って猪なべに も出来ません。
あと一ヶ月ほどで種まきの季節が来ます。畑には柵も何もありませんし、作る資金 も気持ちもありません。困ったなあ・・・と言うのが今の私の正直な気持ちです。