時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「薪割り」

日本に住んでいた若い頃、私はよく履歴書を書きました。今はどうなのか分かりませんが、あの頃は短期のアルバイトでも必ず履歴書を出さなければい けませんでした。そしていつも困っていたのが「趣味」の項目。
我を忘れて打ち込むとか、時間を忘れる程集中できるとか、そういったものを何一つ持っていませんでした。それでいつも仕方なく「読書」と書いてい ました。でも本を読むのは好きでしたが、主題を突き詰めるとか感動して暗記してしまうとかそんな風では無く、ただ時間つぶしに読んでいただけで、 とても趣味と言えるものではありませんでした。
年とっても「趣味は?」と尋ねられるとやっぱり困っていました。でもこの一カ月で、趣味を自信を持って答えられるようになりました。
「趣味はなんですか?」とぜひ聞いて下さいな!

お答えします。
「私の趣味は”薪割り”」です。

移住当初30代前半は、私も暮らしに必要なので薪割りをしていました。ところが何も考えず力任せに作業しているうちにぎっくり腰をやってしまった のです。3か月近く自分で靴下も履けないような状態でした。それ以来薪割りは止めていました。でも5月1日に自分で窯焚き用の薪を準備するという 目標を立てたので、本当に久しぶりに斧を握りました。私がのこぎりで切り出した松ですから幹の太さはせいぜい直径20cm。30cmくらいの長さに輪切りにして薪割りです。斧の握り方、力の入れ方、割る方向などのコツは教えてもらいました。引力を味方につけ、斧の重さを利用し、木の性格を読み、腰を落とし力を抜く。そうすればカポーン!と気持ち良い音がして、薪は割れてくます。特に今 の季節は夜の内に生木の松が凍り、驚くほど割れやすくなっているのです。 薪割りでぎっくり腰になったり、辛い、大変と思うのはおバカです。

もちろん未だ上手く割れない事の方が多いです。でも私だって伊達に年を取ってきた訳ではありません。力や瞬発力が無くなった分、落ち着いて作業す ることや、無駄な力を使わない、無理しない事を学びました。肉体労働を考えなしにがむしゃらにするのは力の余っている若い時だけ。年を取ると言う事は体力が無くなって体にガタがくるという事ではなく、経験 から学び、判断力が付き、人として熟成され味わい深くなる事のはずです。と言っている私は熟成に失敗し雑菌発酵した文句ばあさんになりつつありますが・・・。
でもまあ、そんな事はさて置き、スカンと割れた時は「爽快」と喜び、失敗しても「今は右手に力が入りすぎた」などと反省して、朝のひと時、 楽しい趣味の時間を過ごしています。