時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「つたわる優しさ」

nojomallin2018-06-18

猫柳と普通?の柳は寒い我が家でもどんどん増えて、結構大木になっています。マジン地区にも沢山育っています。でも枝垂れ柳を見たことがありません。
ところがエルボルソンの街に行くと、枝垂れ柳を見ることが出来ます。一年中緑の葉を茂らせていて、その太さと高さに私はいつも圧倒されます。
町外れの友人宅へ行く途中に枝垂れ柳の小道があります。土道のここを車で通ると、放し飼いの犬達がワンワンとタイヤに向かって突進して来ます。
「おはよー。今日も元気だね。」
短い柳のトンネルを犬達に挨拶しながら通るのが楽しみです。

我が家にも長い年月をかけて作った緑のトンネルがあります。両側の木を切らず、車の通行に邪魔になる枝だけのこぎりで切って作ったトンネルです。去年の大雪で随分と折れてしまい、空が見える場所も出来てしまいました。
ここは毎朝犬達と散歩します。木々に抱き締められているようで、ホッと温かい気持ちになります。ただ春と夏、伸びてくる枝を切らなければならず、それが結構大変だし、枝に申し訳ない気持ちがします。

エルボルソンの枝垂れ柳は、誰も剪定もしていないのに、見事なトンネルを作っています。それは車が通る所だけ枝が伸びないからです。
以前はただ単に、車って害なんだなと思っていましたが、最近、自然は植物は凄いなと感動しながら通っています。
人間は自分達の利益や便利さが最優先で、己の価値観で邪魔なものは排除してしまいます。私だって申し訳ないなと思いつつ、木の痛みを感じる事なく枝を切っています。そこには共存とか同等の命だと言う気持ちはありません。
でも木はそんな私達とでも、何とか上手く共存していこうとしていると思ったのです。
我を張って枝を伸ばし続けたら、人間はいつか必ず木そのものを切り倒してしまいます。でも車の通る分だけ成長を止めれば、誰も文句を言わず切ろうとしないでしょう。かえって私の様に、綺麗だと思いながら通る人もいるでしょう。
本来ならここはこの柳の生きる場所なのに、「譲り合って皆んなで生きていこうよ」と言ってくれている気がしたのです。

優しいね。温かいね。ありがとう。
ギスギスに尖って、周りや自分自身を傷つける私の心が解れます。

ここで暮らせて良かった。この柳に出会えて良かった。
先の心配や不安、やりきれない悔しさ情け無さ、そんなものに何時迄も縛られている自分を、自然は救ってくれます。
正直に素直に優しく温かく生きたいと思えます。

パタゴニアは寒い毎日です。猫の福の場所と姿で、薪ストーブの火の加減を調整しています。今日は何時もよりストーブから離れて、ベロンと寝ているから暖かいのでしょう。今年16歳。大切にしたい福との日々です。