時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ローズヒップの産地」

おそらく日本でも、ローズヒップの化粧品や石鹸、お茶は手にはいると思います。日本の友人のメールでは自然志向の高級品で、随分おしゃれな商品だと言うことですが・・・?

パタゴニア、特に私の住む南緯42度地区では、今このローズヒップの実が真っ赤に熟しています。今年はいつも出るカビも付いておらず、とても綺麗で大きな実が鈴なりになっています。

こちらではロサモスケータと呼ばれ、ジャムやジュース、お茶、ケチャップ、お酒などに加工され特産物としてお土産屋に並んでいますし、ヨーロッパへ輸出もされています。おそらく日本で売られている商品は、ここから安く輸出され、ヨーロッパで高級品として加工された物でしょう。またこの実は、村の牛や馬、羊達の貴重な食料ともなっています。

こうして都合良く利用しているのに、このロサモスケータはここでは「嫌われ者」なのです。

第一に棘だらけな事。この棘は指などに簡単に刺さり、細い針が深く食い込んでいくのです。しかもこれには毒が有るらしく、きっちり抜かないと膿んでしまったり、直ぐに抜いても(針が細いので簡単には抜けないのですが)嫌な痛みが続いたりします。

次に生命力が強く、あっと言う間にパタゴニアに広がり、どんどん増え続けている事です。実を食べた家畜の糞の中から発芽しますし、株を抜き取っても、根が数cm残っていたらそこから再生します。

そして何よりも嫌われる原因はこれが「帰化植物」だと言う事です。よそ者嫌いのアルゼンチンらしい発想です。(と言っても、現在のアルゼンチン人の80%近くはヨーロッパを主に移住者の子孫なんですけどね)

例外なく我が家にもこのロサモスケータは至る所にあります。正直「大歓迎」の植物ではありませんので、道や畑、果樹の周りの株は毎年切らせて貰っていますが、その繁殖力に勝てずに手が着けられないのも事実です。

でも、私はこのロサモスケータを毛嫌いはしていません。花は可愛いですし、実もお茶やケチャップに利用しています。この種からとった油のお陰で、顔中に広がっていたシミがかなり減りました。今までは市販品を使っていましたが、今年はアルコール抽出して自家製を作っています。また最近始めた廃油石鹸作りでも、ロサモスケータを使っています。

ロサモスケータには欠点も多いですが、こうして利点も多いのです。

また、この真っ赤に色づいた実は春先まで株に残っています。ですから紅葉が終わって冬に入っても、殺風景なパタゴニアの景色に色を添えてくれます。

一度霜に当たって凍った実は甘みが増し美味しいです。

これからの時期パタゴニアを旅行されたら、この赤い実が目に付くことでしょう。道路沿いは車の排気ガスを被ってお薦め出来ませんが、ちょっと脇道にそれた所の実をそのままご賞味下さい。また幾つか実を摘んで、軽く潰してお茶にしたり、ジンなど漬け込んでお酒にしたりすると、ひと味変わったパタゴニアの旅になる事でしょう。

ただし、棘には十分気を付けて下さい。また実の中は種だらけです。そこらに捨てて地元の人の反感を買わないようにお願いします。

帰化植物だって、ここで育ったのですから私は十分パタゴニアの風物に入ると思っています。パタゴニアの野生のロサモスケータを是非楽しんで、味わってみて下さい。