時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「命を受け継いで」

nojomallin2007-06-18

「命を受け継いで」

私達の主燃料は「薪」です。ですから春から夏の一番大切な仕事が「薪準備」です。
幸い5.5haの我が家には立ち枯れの木が沢山あり薪には不足しません。また、焼き物
の窯焚きは炎の延びる「松」を使います。松はここの気候に合うのか、成長が早くあ
ちこちで植林しています。我が家も植林の松と、私達が14年前から種で播き続けた松
がかなり大きくなっています。

ただ木はありますが、それが何もせずに「薪」として利用出来るわけではありませ
ん。立ち枯れの木も松も、まず枝を払い、倒す方向を考慮しながら伐っていきます。
こうして書くのは簡単ですが、実際は周りの木にダメージを与えず、電線や屋根に
引っかけない様に最新の注意を払います。また、伐った木を人力で林から家まで運ぶ
のもなかなか大変です。持てる範囲の大きさに切り、何度も往復して少しずつ運んで
行きます。それから用途に合わせて、切ったり割ったりするのです。

運ぶのは私もしますが、木を伐ったり割ったりは夫の仕事でした。

マジン村では薪を主燃料にしている家が殆どです。ですから春から秋は、連日電動ノ
コの音が鳴り響いています。ところが我が家では今年は殆ど電動ノコの音を出しませ
んでした。建具屋の義父から貰い受けた数種の日本のノコギリを使って木を伐ること
にしたからです。電動では5分で切り倒せる木も、手では1時間掛かります。最初はそ
うやって木を伐り始めた夫を、私は「時間も労力もかかるのに・・・」と冷めた目で
見つめ、冬籠もり用の薪が十分準備出来なくなる前に、嫌みの一つ、文句の一つでも
言わなきゃあと思っていました。

ところが私がどうしても木を伐らなければいけない状況になり、電動ノコの使い方を
知らなかったので、日本の手ノコで切ることになりました。

早く伐ろうと焦っても力んでも疲れるだけでした。ゆっくり静かに落ち着いて集中し
てノコを引いていくのです。静かに落ち着いて・・・。

いつしか私はノコを引きながらとても静かな気持ちになれ、「有り難う。」と木に語
り続けていました。

そしてその時わかったのです。少なくとも生きている木を伐る時は、出来る限りこう
して手で伐らなければいけないと。木を伐るという事は木の命を引き継ぐ事なのだか
ら。そして、自分の手で出来る範囲が本当に自分に必要な物なのだと。

今では私も時間を見つけて手ノコで木を伐ります。それは私には労働では無く、木と
向き合う大切な時間です。木や自然に感謝する貴重な時間です。まだまだ私の一方通
行ですが、いつかきっと木からメッセージを受け取れる時が来ると楽しみにしていま
す。