時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「木を飾る花を見て」

nojomallin2007-05-02

山の無い岡崎平野で育った所為か山が好きです。眺めるのも好きですが、登るの はもっと好きです。私の場合は軽登山で、若い頃はひたすら頂上を目指して歩き、山 頂からみる風景が好きでした。途中で食べるおやつやお弁当も楽しみでした。

今、アンデス山脈の麓に暮らし、山を感じながら暮らしています。冬山は登りま せんが、夏から秋は時間を見つけて年に一度は山に登る事にしています。若い頃の様 に、ただひたすら山頂を目指すのではなく、ゆっくりゆっくり、木々や草花、山の空 気、空の色、小さな昆虫、鳥たちを感じながら登る様にしています。

年末年始の観光シーズンさえ外せば、ここの山はほとんど登山客がおらずとても 落ち着きます。
今年もブエノスから遊びに来た友人夫婦を案内がてら、ペリート モレノ岳に登りました。何回登っても飽きることは決してありません。「また来た よ。宜しくお願いします。」山に語りかけながらマイペースで一歩一歩進んでいきま す。山の、木々の命が感じられるこの時がとても好きです。

友人と一緒で も、私はついつい自分の世界に浸って、もともとあまり持ち合わせていない気配りを 更に忘れてしまいます。だから私と山に登った人は「もう次回は遠慮しておく。」と 思っているかもしれません。
そうして歩きながら、私は見慣れている筈のパタゴ ニア自生のニレの木に、見たことも無い白い花が咲いているのを見つけたのです。
「綺麗!」走り寄って見上げて、私はそれがニレの花では無いことに気づきまし た。
それはニレの木に寄生する蔓科の植物が咲かせた花だったのです。

ニレの木と白い花。
「いいなあ〜」私はとても心が温かくなっていました。
自然に当たり前に、お互いが共生しあってそこにいる。誰に見せる為でも、その美し さ可憐さを自慢する為でも無く、ただ自然にそこにいる。
私がニレなら「ちょっ と!勝手にそんな所で花なんか咲かせないでよ!」と、体をばさばさ揺すって振り落 とす位の事はしているでしょう。

私が自然を美しいと思うのは、そこになん の作為も無く、自己主張せず、卑屈にもならず、お互いが当たり前に普通に存在して いる所かもしれません。

私達の気付かない場所で、知らない時に、こうして 多くの自然は優しい営みを続けているのでしょう。
意識せず自然に、そうした営 みの中に入っていきたいとその花を見ながら思いました。