時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「散歩をしながら」

nojomallin2007-03-17

ここに暮らし始めてから、毎日欠かさず続けている事の一つに朝夕の散歩があり ます。散歩と言っても、最初の目的は「農場の見回り」でした。

私達がここを買う数ヶ月前に持ち主は別の場所に移り、住んでいたのは家を管理 するおばさんだけでした。ですから心ない一部隣人が、目の届かない場所で木を伐っ たり、牛や馬を放牧したりしていました。これは南米では良くあることで、「何も言 われないなら良いでしょう」と言うわけなのです。

何年も住まないでいると、勝手に家を建てられ住み着かれ、気が付いた時にはも うその土地は彼らの物となっていることが、実際によくあります。

私達も最初はのほほんとしていましたが、大きなシプレスの木が伐られ持って行 かれてからは流石に「こりゃあイカン!」と思い、毎日朝と夕方見回りをすることに したのです。一度は夫がせっせと私達の農場で薪集めをしている人を見つけました。 そこで、彼が夢中で集めた薪を「よっこらしょ」と担いで隣との柵を越えようとした 時、「やあ、こんにちは」と声をかけたのです。流石にぎょっとしたようですが、夫 が「暑いですねえ」と世間話を始めると、担いでいた薪を下ろし「そうですねえ〜。 それじゃあ、私は急ぎますんで」と悠々と去って行ったそうです。

その彼は町などで会うと「やあ、隣人!元気かい」と何事も無かったように挨拶 をかわし、私達も「久しぶり」などと声をかけてます。

そんな風に始まった見回りも、いつしか私達に欠かせない、犬達との「楽しい散 歩」に変わりました。

特に私は朝の散歩が大好きです。早起きの私達がゆっくりとマテ茶で朝食を摂 り、掃除洗濯を終えると朝日が農場を照らし始めます。冬はサクサクと霜柱を踏みな がら、夏は朝露に濡れながら、気持ちよい空気の中犬達と歩きます。勿論雨が降って も合羽を着て歩きます。

そして今の季節は特に朝の散歩に時間が掛かります。それは「きのこの季節」が 始まったからです。普段は行かない松林の奥にも足を伸ばし、きのこ目になって探し ます。犬達はきのこには興味が無いらしく、林の中をふざけて走り回ったり、野ウサ ギを追ったりと一時もじっとしていません。

それから、きのこで膨らんだ袋を抱えながら、あちこちにあるリンゴの色づきを 確認したり、鈴なりになっているスモモの熟した実をもいで口にします。年は取って いても、この時間はいつも、子供の様に気持ちがはしゃぎ心がほくほくします。

「楽しいな。嬉しいな。幸せだな。」今の日本ではきっと恥ずかしくて口に出来 ないこんな言葉も、この時は歌うように、すらすら自然に出てきます。

さあ、明日の朝はもう一回り大きな袋を持って散歩に出掛けるとしましょう。