時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

マイテン

nojomallin2006-11-27

月に一度か二度、時間を見つけて焼き物の「土と石」探しを兼 ね、夫と愛犬「羅空」と一緒に、車での日帰り旅行をします。
日帰りと言って も、往復500kmはざらの結構ハードな旅です。しかも、行く先の殆どがパタゴニアの 乾燥地帯。炎天下、砂埃の舞う土道を、木の無いカラカラ風景の中を進むのは、予想 以上に体力を消耗します。
時々この乾燥地帯を「厳しいけれど美しい自然の風 景」と感動する人がいますが、私にはこれが本当の「自然」の姿とは思えません。砂 漠も乾燥地帯も、人間が作ってしまったのだと思うのです。木を伐るだけで種を播か ず、家畜の放牧を始めたら、きっとどんな深い森だって、アッと言う間に何処でも同 じ様な乾燥地帯に変わって行くでしょう。
現に、ボルソンから直線で北へ約 2000kmも離れた、ボリビア国境付近のサルタ州やフフイ州の乾燥地帯の風景が、この パタゴニアの乾燥地帯ととても良く似ているのです。これらの北の州では、雨が何ヶ 月も降らず、それに耐えられる唯一の家畜として「山羊」の放牧が主となってきてい るそうですが、このパタゴニアもここ数年で、牛や羊に代わり、山羊が驚くほどの勢 いで増えてきています。
パタゴニアの乾燥地帯にも、それ程遠くない以前、木が 生い茂り、雨が降っていたはずです。そう確信したのは、先日サルティージョへ行っ た時です。
ずっと灌木だけの生えている乾燥地帯に、突然自生の木「マイテン」 が一本、目に飛び込んできたのです。
車を降り、近くまで行って更に感動しまし た。その「マイテン」は、大きな岩を突き破って生えていたのです。マイテンは地下 水のある所に生える、と言われています。また、パタゴニアインディヘナはこの木 を「守り神」として大切にしてきたそうです。この3m近くある大岩がマイテンを人の 手から守ってきたのでしょう。木陰はそこだけ空気が違う様にひんやりとして、静か で落ち着いた気持ちにさせてくれました。
親も兄弟も友達ももう居ない、雨の降 らなくなったその場所で、それでもそのマイテンはいじけたり諦める事無く、大きく 枝を広げ天に向かって伸びていました。
いつでも私に感動を与え、頑張ろうねと 励ましてくれるのは、人の作り出した物ではなく、こうした「自然の力」です。
「有り難う。また会いに来るからね。その時は粘土団子にした果樹や花の種を持って きて、ここに播かせてもらうから。」
自然は言葉では何も語らないけれど、多くの事を教えてくれるかけがえのない私の師です。