時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

バンドリア

nojomallin2006-08-03

私はパタゴニアの四季の中で冬が一番好きです。
理由はいろいろありますが、一番の理由は雨や雪が多くて寒く、この時期には外仕事があまり出来無いからです。チェーンソーで木を伐る音、道路を直すトラクターの音、家を作る建築音、それらの人達が垂れ流す私にとっては耳障りな音楽。又、夜が長く、何時までも外でガーガーと騒ぐ人の音、そういう音がぐっと減るからです。
次は霜柱の道を歩く時の楽しさです。ザシザシと霜柱の感触と音を楽しみながら、犬達と散歩するのは本当に心が弾みます。
平野育ちの私は、雪山の見える風景も気に入っています。特に新雪を被って碧白く、朝日が当たってオレンジ色に輝くアンデスは綺麗で、瞬きするのも惜しい気がします。
手が痺れる程の水の冷たさも、水桶に張った氷を割る事も、体の芯からキリリとする冷たい空気も大好きです。
霜で真っ白になった草が、朝日に溶け虹色に光る時は子供の様に心が躍ります。
ストーブに薪を入れる瞬間も、凍ったローズヒップの実を摘む時も楽しいです。
雪や大雨で停電して、ロウソクの明かりで過ごす時間も貴重です。
いくら雨が降って農場が水浸しになっても、夏の干魃に比べると有り難いと思います。
ところが、
今年は暖冬で、霜柱を踏む楽しみも、水桶に張った氷を割る楽しみも殆ど有りませんでした。曇りや雨の日が続き、アンデスの山はいつも雲に覆われていて見えません。暦の上ではもう冬も終わってしまうのに、私の気持ちは「これから本当の寒さが来る」とまだ冬の終わりを納得出来ず、冬のやって来る期待感さえ持っていました。でも今朝、まだ薄暗い中、思いがけずマジン村の渡り鳥、バンドリアの声を聞き“はっ”としました。
この鳥、エルボルソンの町には一年中いますが、冬のマジン村にはおらず、毎年7月の終わりにやって来る、私にとっては「春の象徴」の鳥でした。
私が何時までも、パタゴニアの厳しい冬にしがみついている時、彼らは潔く春の訪れを運んで来てくれたのです。
さて、私も気持ちを切り替えて、春を迎える準備を始めましょう。