時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

つづく思い込み

アルゼンチンは9月21日が春の日。でもパタゴニアではまだまだ寒い日が続きます。
けれども10月に入ると雨も少なくなり、日中は暑いと感じる日が多くなります。
畑の種蒔きも始まります。
私にとっての春は、冬中手離せなかったタイツを脱ぎ、洗濯物を外に干せるようになった時ですが、それが大体10月の第2週くらいでした。
ところが今年は11月に入ってもタイツを履き、洗濯物も一日中焚いている薪ストーブの上で干し、マイナスにまで下がる朝は寒くて布団から出るのに気合いが必要です。
せっかく満開だったりんごも、一昨日の強烈な霜でみんな下を向いて花びらがしおれていました。
アンデスの山も一昨日までの雨で真っ白に雪化粧をし直しました。
天気予報では週末からまた天気が崩れるようですので、晴れた日は気張って薪準備に精を出します。
厳しい気候ですがこれがパタゴニアに暮らす面白さ、醍醐味なんでしょう。

私は週2回エルボルソンの街へ行きます。日本語教室をし、WiFiでネットをし、買い物をし、その他、必要な用事を済ませます。
家にいる猫や犬たちが心配で、なるべく早く戻りたいので、街に行くと慌ただしくせかせかと動き回っています。それでゆっくり街の自然を感じたり、街の探求をする事もありません。
ですから未だに街の道の名前も、どこにどんなお店があるのかも、いつ何処でどんな講習会やコンサート、展覧会などがあるのかよく知りません。
いつも同じ道をほとんど同じ時間に通り過ぎていますが、何年も前から気になっていた壁の絵がありました。メイン通りですからスピードを落としてじっくり見るのも危ないし、止まって見に行く気も起きませんでしたが、いつも必ず横目でチラリと見て通り過ぎていました。
その絵は私には「マサカリ担いだ金太郎」に見えました。何故か山では無く、海辺で金太郎が真っ直ぐ前を見据えているようでした。
ここパタゴニアで金太郎に出会えた嬉しさや不思議さを感じていました。

10月の初めネコチェアに行く前に、お土産にチョコレートを買いました。街には色々なチョコレート屋さんがありますが、友人が一番美味しいと勧めるお店がその壁画の近くにありました。
折角の機会です。ちょっと歩いてその絵のところに行ってみました。
初めてゆっくりじっくり眺めて、海辺なんかじゃ無い事も、花に囲まれた女の子(多分)だった事も分かりました。
正直絵の意味は全然分かりませんでしたし、いい絵だなあと感じる事もありませんでした。
でも消されて他の絵が描かれる前にゆっくり見ることができて良かったなと思いました。

疑問が解けた今でも、長年の癖でそこを通る度、横目でチラリと見てしまいます。そしてやっぱり私にはその絵が、マサカリ担いだ海辺の金太郎くんに見えるのです。
きっとこんな思い込みがまだ一杯あるんだろうと思いますが、それはそれで楽しいものです。