時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

山で空を見ながら考えたこと

nojomallin2005-12-24

12月中旬から1ヶ月間、アンデスの山々ではアブが大発生します。
そうとは知らない9年前、夫と二人でお気に入りの山、ペリートモレノ岳へお正月登山に出掛けました。登山口の駐車場では何でも無かったのに、いざ登り始めると、いったい今まで何処に居たのか?と不思議な位、ワンワンとアブが体にまとわりついてきました。
前を歩く夫は、まるでアブの大群が移動している様です。しかも、少しでも動きを止めると、「しめた」とばかりに、アブ達が一斉にチクチク刺してくるので堪りません。休憩もそこそこに、ひたすら山頂を目指しました。さすがに、雪の残る高原台地では、まとわりつく強者アブの数も10匹前後に減りましたが、とっておきのお雑煮を温めている時も、「新年おめでとう」と、どぶろくで乾杯する時も、片手は常にアブを追い払う為に、忙しく動かして居なければなりませんでした。楽しい思い出ですが、正直「二度とごめん」の気持ちになりました。
今年は思いがけない11月の長雨と低温で、のうじょう真人から見渡せるアンデスの山々の山頂には、まだ雪がかなり残っています。「これなら、アブもまだ居ないんじゃあない?クリスマスからの観光シーズンになる前に一度は山に行きたいね。」と言う訳で、先日、まだ登った事のないデドゴルド岳(通称“親指山”)に行ってきました。
駐車場から一度、麓の川まで下り、そこから再び登り始めます。登山道も十分整備されておらず、観光客用の宿泊施設もない事などから、まだ人がほとんど登らない山で、静かで、ゴミも無く、登山道も細く、大きなニレやコイウエイなどの原生林も残っていて、たちまち私達お気に入りの山になりました。
雪解け水の流れる川には所々滝もあり、ペリートモレノ岳ほど種類はありませんが、高山植物も可愛い花を咲かせていました。
3時間程登った所で、増水した川に架かる丸太一本の橋を、私が怖くてどうしても渡ることが出来ず、お昼を食べた後、夫は行ける所まで一人で登ることにしました。夫が戻って来る1時間ばかり、私はごろんと寝転がり、木々の間から光る高い空を見つめていました。
滝の音、風に揺れる木々の音、小鳥達のさえずり、土の香り、雪解け水の香り。
自分勝手だけど、せめてこの山は、ペリートモレノ岳やリオアスール岳の様に、人間の為に利用され、整備されないで欲しいと願っていました。