時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

のうじょう真人の「と」印

私は、山も丘もない真っ平らな土地、岡崎平野で育ちました。その為「山を望む景色」は、私にとって特別なものです。
のうじょう真人からは万年雪をかぶったアンデス山脈を見ることが出来ます。
春から初夏にかけ吹き荒れる、パタゴニア特有の西風は、チリから山頂の雪の上を滑ってくるので、身を切るような冷たさです。
夏、谷間から雲がわき上がると、待望の雨が降ります。
秋、原生林のニレ、レンガが紅葉し、山を深紅に色どります。
里に冷たい雨が降り、山が一気に雪化粧をして白く可憐な姿に変わると、冬の始まりです。
“山には神様が宿っている”と素直に信じる事ができます。
そして、春に向かうこの季節、私は毎朝イエローアスール山の「と」印を確認します。
8月に入って晴の日が続くと、山の雪解けが始まり、日当たりの悪い場所に雪が残ります。するとイエローアスール山の山頂付近に、「と」が白く浮かび上がるのです。
これに気付いた時、私はとても、うきうきしました。だって、時雄の「と」、時子の「と」、友達の「と」、とっても楽しい、とっても幸せ、とっても嬉しいの「と」なのですから。
今年はのうじょう真人には一度も雪が降らず、私には寂しい冬でした。「と」印も、いつものこの時期より、やせっぽちの気がします。あと何日、この「と」印を見る事ができるでしょうか。
「と」印が消えたらいよいよ春の始まりです。そうしたら、そら豆の植え付けを始めます。