時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「はずむ気持ち」

1月2月はアルゼンチンの夏期休暇。エルボルソンとその周辺の町にはブエノスや他の大きな都市から、勿論海外からも沢山の観光客が避暑にトレッキングにやって来ます。そしてそれに合わせてお祭りもあります。それぞれのお祭りにはテーマがありますが、正直言って内容は屋台が出て、美人コンテストがあって、地元のバンドが演奏して…と何処も似たり寄ったりの気がします。中にはマイテンの「蒸気機関車祭り」。チョリラの「アサード祭り」の様に特徴のあるものもありますが、私は人が多く集まる場所が苦手だし、お祭りが盛り上がるのは夜からだし、わざわざお祭りのために車で出かけるのは億劫だし、20年以上住んでいますが、行ったことはありませんでした。
ところが今年はお隣の町のラゴプエロのお祭りに、友人が焼き物の水フィルターのデモストレーションで出店することになり、またブエノスの友人一家が久しぶりに遊びに来ていたので、初日の金曜日夕方6時から彼等と一緒に私の運転で行ってみました。
6時ではまだ早すぎて店も準備中という所もありましたが、あまり人がおらず、車の駐車もそれほど困ることなく助かりました。この町は午後から強い西風が吹くのですが、この日は風もなく穏やかで、薄曇りで直射日光も遮られ、それほど暑くもありませんでした。お祭りのテーマは「森」。
外に出ている店は木工品、織物、ドライフラワー、装飾品、焼き物、食べ物屋などなど、何処へ行ってもある物でしたが、2つのテントの中は、周辺の自然と森をテーマにしたものでした。
野鳥や木や昆虫のポストカードや、パンフレット、地元の人の出した本、観光案内的なビデオを流していて、それ程専門的な内容ではありませんでしたが、お祭りのテーマに沿っていて、好感が持てました。
バンド公演、コンテストなどのイベントは時間が早すぎて何もありませんでしたが、広場には移動遊園地が出来ていて正直びっくりしました。そしてとても懐かしくウキウキしました。
殆どが子供用の遊技で乗り物でしたが、1つだけ大人も楽しめるものがありました。
ボールを投げて缶を倒し商品をもらうものです。
友人の子、20歳の女の子が挑戦しました。
一回三球で80ペソ。(日本円で約450円)。ルールは缶を全て崩した人にだけ商品が出ます。
ボールも布にスポンジを詰めた手作り。
笑えたのは崩す缶がどれもペンキを塗った手作り。歪んでいたり、笑い顔が描いてあるのもお愛嬌でした。
彼女は最初の一球だけ缶に当たり、上の一個をくずしましたが、ニ球三球目は大外れでかすりもしませんでした。
「だってね、ボールがふにゃふにゃだし、軽いから思うように投げられなかったの。でも面白かった。」
楽しそうに話してくれました。
私は日本でも子供の時から、お祭りの屋台で遊んだ記憶が殆どありません。両親がそういう場所にあまり行かない人たちで、家族で羽目を外して騒ぐと言う経験もありません。お祭りで水ヨーヨーやパズルなどは買いましたが、一瞬で終わってしまい何も残らないものに、お金を使うのは無駄なことだと思い込んで、その面白さを知りませんでした。
その時も自分でやってみようという遊び心がありませんでした。
今後悔しています。思いっきり楽しんで遊べば良かった。
移動遊園地を見ていて心が弾んだのは、子供の頃、お祭りでも、デパートの屋上の遊園地でも、乗りたいなあと思いながら、素直に言えなかった記憶が蘇り、楽しそうに遊んでいる人たち、子供たちを見て、楽しいね。良かったね。と同感出来たからだと思いました。
10代後半から20代前半は、子供の頃の反動か遊園地大好きで、よく遊びに行きました。でもこの移動遊園地の様に、素朴で単純な遊技を家族で一緒に楽しんでいる景色はとても温かく優しいものでした。
自然の中で過ごす事が子供の成長に必要で大切なことだと思いますが、年に一回くらいはこうして家族でお祭りに来て人工的な遊技で遊ぶ事も良いんじゃないかと思いました。
自分一人でお祭りに行く気はしませんが、機会があったらまた行き、今度こそ童心にかえって思いっきり遊んで見たいと思います。




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