時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「恐怖のシロアリ侵略」

「わお〜!凄い数の蜻蛉が飛んでいる。」
ある夜の事です。どこから何時の間に入ってきたのか、気が付くと家中に羽虫が飛びまわっているのです。こんなこと初めてでした。夏でも日が暮れると 肌寒くなるパタゴニアです。ハエは居ますが、蚊やゴキブリに悩まされた事はありません。ですから夜中に飛び回る正体不明のこの大軍を、私は呑気に も「蜻蛉」と思いこんでいました。
たった一日のはかない命だと思い、あまり気にせず床につき、翌朝は亡骸を集めて土に還しました。

あれから一年・・・・
数日前から家の真ん中にある柱からカサコソと何かをかじる様な気になる音を聞くようになりました。
最初は小さな音だったのですが、段々と大きく騒がしく厚かましくなってきました。
音のする部分を叩いてみると、柱を叩いている感触でなく空洞の筒を叩いている様な音です。
まさか・・・
嫌な予感がしたので、思い切って柱の一部にドリルで穴を開けてみました。ドリルは手ごたえなくあっけなく穴を開けてしまいました。
そして私は恐怖の光景を目にしてしまったのです。
無数のシロアリが柱をかじり、中を紙の様にペラペラにしていたのです。
そんなそんなそんな・・・・ばかなあ・・・
昆虫や爬虫類を私は気持ち悪いとか怖いと感じませんが、このシロアリの大軍を目にした時、そしてシロアリと目があった時は鳥肌が立ちました。
酢を大量にかけてみましたが、その時だけ動きを止め姿を消しますが、数時間するとまたカサコソと食事を始める音がします。
シロアリだって自然の仲間。貴重な命。
なんて言える程、私は出来た人間じゃありません。検索で駆除法を調べましたが、柱の中に砂を埋めていくとか、天敵のアカアリを放すとか、我が家で 実現可能な完璧駆除、防除の方法に行きつけませんでした。柱も下から天井近くまで、もうシロアリに食べられていたので、思い切って柱を切り離し、 新しい柱に付け変えました。いやはや・・・大変な作業でした。主人が居てくれて良かったと感謝しました。
急に姿を消したシロアリが不気味でしたが、取敢えず胸をなで下ろしました。
ところが数日後、別の柱からまた例の音が聞こえるのです。くらくら目眩がしてきました。急いでドリルで穴を開けてみると、やはり前回同様手ごたえ 無く穴があき、またまた例のシロアリ達とご対面です。困ったことに、今回の柱は壁に半分埋め込まれているので切って取り変える事が不可能です。
私は化学薬品が嫌いです。薬も嫌いです。自分が口に出来ない物を、大地に還すのは大地に失礼だと思い、極力自然の物を使う努力をしています。
でも・・・・でも・・・今回は動植物関係の薬局に駆け込んでしまいました。
以前日本人の獣医さんや薬剤師さんが「今時こんなきつい薬を使ってるんだ!!」と驚いたアルゼンチンです。そのアルゼンチンでお店の人にシロアリ 駆除にはこれしかないと、「劇薬だから気をつけて使え。猫がなめたら死ぬぞ。手に付いたら急いで石鹸で洗え。」と言われた殺虫剤を買ってきてしま いました。しかも道具一式自分で揃え自分で配合して使うのです。緊張しました。
その殺虫剤を使いながら、これで何とかなるとホッとしている自分に気付き、心が寒くなりました。
所詮私はこの程度の人間だったんだ。自然に還ろうとか自然と共存したいとか言う資格はもう無いなあ・・・。

もう二度とシロアリとご対面は嫌ですし、殺虫剤を使う事もしたくないです。それで私達に出来る対応策として、時々家じゅうを燻しています。別宅に は囲炉裏があるので簡単ですが、本宅はがらんと広いし、天井も高く、猫たちが住んでいるのでなかなか思う様には燻せませんが、火鉢や薪ストーブを 使って燻しています。でも一年後が恐怖です。何かシロアリ対策をご存じの方、どうかアドバイス下さい。

そんな訳で、我が家に初めて入ったら、きっと日本ではもうあまりお目にかかれない煙の臭いを感じる事が出来ると思いますよ。