時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

たみっこ

nojomallin2006-09-21

先日、雌猫「たみっこ」を避妊手術に連れて行きました。
すでに9匹の猫と同居している我が家。猫は好きですし、人間側の理由で避妊するなんて酷い事だと思いますが、責任を持って暮らせる数の限界を越えつつあるので、申し訳ないと思いつつ、獣医さんの所に連れて行きました。
朝、私の呼ぶ声に、何の疑いも持たずに甘えて擦り寄って来た所を、無理矢理車に乗せたので、30分の道のり、怖がって「フーフー」と唸りっぱなしでした。

そして数時間後、麻酔でふらふらの「たみっこ」を家に連れ帰りました。
ストーブの側の段ボール箱に入れ、寝ているのを確認してから、私は隣の陶芸部屋に入りました。
ところが、暫くすると、ごとごと音がするのです。
「何だろう?」と部屋を出ると、寝ていた「たみっこ」が、ふらふらしながら、猫扉を通り抜けようとしているのです。
「おしっこならその辺にしていいよ。掃除するからね。まだゆっくり寝ていなさい。」と私は「たみっこ」を段ボールの中に戻しました。

ストーブの側から外に出るには、2カ所の猫扉を通らなければなりません。
最初の扉は問題無いのですが、外に出る為の扉は、洗濯台の窓1mの高さにあるので、箱を階段状に積んであり、ぴょんぴょんと軽く飛び上ってから出て行かなければいけません。
普段なら何でもないのですが、今の「たみっこ」には気の遠くなるような高さのはずです。それでも、気がつくと、その箱にすがって必死に外に出ようとしているのです。
2〜3回は言い聞かせてストーブの側に戻しましたが、直ぐに出口に向かうので、思い切って外に出してみました。
「たみっこ」は暫く、りんごの木の下で横たわっていましたが、ちょっと目を離した隙に、姿が見えなくなってしまったのです。

「どうしよう!!」
夫を呼んで必死に探しました。ネマガリタケ、ロサモスケータ、ラウラやラダールの灌木、回りは小さな猫が隠れるには絶好の藪です。
「居た。居た。」
夫の声にほっとして側に寄ると、「たみっこ」は警戒した目で私を見て、奥にズンズン進んで行ってしまいました。
呼べば呼ぶほど、近寄れば近寄る程、「たみっこ」は人の通れない藪の中にふらふらしながら逃げ込んで行ってしまいます。
きっと、今度私に捕まれば、もっと酷い目に遭うとでも思ったのでしょう。心配でしたが、深追いはしないことにしました。
すっかり信頼関係が無くなってしまったことが悲しく残念でした。

ところが、暗くなり始めた頃、“バン”と勢い良く猫扉を開け、「たみっこ」が戻ってきたのです。足腰もしっかりして、今日手術したとは、とても思えない元気さでした。
そして、何のためらいも無く、私の膝の上に飛び乗ってくれたのです。信頼関係が無くなったなんて、私は何て情けない事を考えたのでしょう。
「たみっこ」は何処が一番自分の体力を回復出来る場所か、ちゃんと知っていたのです。それは私が最適だと考えた、温かい部屋の、毛布を引いた段ボール箱の中なんかでは無く、自然の中の大地の上、太陽の下だと。

ごろごろ喉を鳴らす「たみっこ」を抱きながら、私はまた、猫に大切な事を教わりました。