時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

最後の1個

 

去年はりんごが大豊作でした。大豊作の翌年は不作になる事が多いのですが、今年も豊かな恵みがありました。我が家のりんごの殆どは移住当初種を蒔いたものが、芽を出し育った木です。選定とか施肥とかせず、好きな場所で好きなように育った木ですから野生のりんごと言っても差し支えない気がします。

全部で50本くらいありますが、みんな色も味も性格も違います。

日当たりが悪く寒い我が家ですから、どの子も実は小さいです。

何度も書いていますが、引っ越しして来た時りんごは殆どありませんでした。農場中回って、たった一本、たった一個実をつけたりんごを見つけました。

もし「今まで食べた物で一番美味しかったのは何?」と聞かれたら、私は迷わず「あの時食べたりんご」と言います。

あのりんごが私が此処に根を伸ばす大きな第一歩だった気がします。

食べきれないほどのりんごが実る農場にしたい。

毎年毎年、りんごの種を農場にまき続けました。飼っていた犬達も落ちた実を食べ、それをう◯こ団子にして散歩道に播いてくれました。そして今、農場にはりんごの木があちこちに育っています。

今までは人にあげたり、ジュースにしたり、ひとつづつ紙で包んで保存したりしていましたが、今年は体力的に収穫作業が大変になったので、その日に食べる分くらいしか取りませんでした。

けれども初めて長期受け入れたボランティアさんが、時間を見つけてはりんごを収穫してきて、丁寧に拭いて紙に包んでダンボールに詰めて行ってくれました。

傷のあるのはワンちゃん用にバケツに入れてくれたので、しばらくワンコ達はりんご風味の朝ごはんを食べていました。

私もりんごたっぷりの米粉パンケーキを毎朝食べていました。

そして先日最後の一個を食べました。

夏のいろんな思い出が甦りました。楽しい出会いがいっぱいあって、元気や感動を沢山もらいました。自分のやりたい事が自分の意思でできて、体の不調は大きいけど、それ以上に毎日が感謝と感動に満たされ幸せです。

此処に来るまでは、木の種を蒔くという発想は全くありませんでした。苗木を植えるのが当たり前と思っていました。

でも此処で種を播く意義を知りました。自然に任せる、自然の意思に従う事の大切さも学びました。でも私は未だに自然の声を聞けず、自然の一部として生きられていないのが恥ずかしいです。

30年間私と一緒に成長し、守り育んでくれた小さな農場。大自然とは程遠いけれど、大切な愛おしい場所です。

通過点にするのではなく、農場に深く根を張り、この先も自然に学びながら一緒に成長していってくれる誰かに託せる日が待ち遠しいです。

寒い日が続いています。

3日前にうっかり水のホースを凍らせてしまい未だに蛇口から水が出ません。快晴で朝はマイナス5度、日中も5度前後の毎日ですから、なかなか解けてくれません。

少し前まではバケツで水を汲んでくる生活もパタゴニア醍醐味と大いに楽しんでいましたが、流石に今は「早く解けて~」と祈る気持ちが優っています。

もう一度初心に返って、今の暮らしを楽しまなきゃあ、と思います。

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