時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

“種”を播く

nojomallin2006-03-23

「明日世界が滅びるとしても、今日、君はリンゴの木を植える」
これは作家、故開高健氏が、「オーパ」シリーズの旅の同行料理人、谷口博之氏に贈った最初の言葉だそうです。開高氏自身の言葉なのか、引用なのか分かりませんが、私はこの言葉と最近出会い、とても嬉しくなりました。
私はパタゴニアのマジン村が好きです。アンデス山脈を見るのも、登るのも好きです。雪解け水の流れる夏でも冷たい川や湖が好きです。ゆっくり成長する森の木々が好きです。季節毎に咲く花々が好きです。この自然に生きる鳥も野ウサギも昆虫も魚も好きです。時には大木を倒してしまう強い西風だって好きです。私は、私を取り巻く全ての自然が愛おしく大好きです。
だから、多くの人がここに移り住んで来る気持ちも分かります。でも、人口増加に伴って、増え続けるゴミや騒音、無造作に切り倒される木々に「もういい加減にして!もう止めて!」と心が爆発しそうになるのも事実です。
見返りを期待している訳ではないけれど、後脚で砂をかけられる事も多く、心底がっかりする事もあります。
だから時々、自分が押しつぶされそうになっていました。
そんな時、冒頭の言葉に出会い元気が出ました。
良い所だから、人がどんどんやって来て増えていくのは仕方の無いことです。人が増えると、それぞれの価値観で、便利さや快適さを求めていきます。お金が絡んでくると、必ず醜い争いが起こります。誰が悪いとか、正しいとか、何が悪くて、何が良いのか、それはどんなに考えても答えは出ないでしょう。
ならば、私は私の正しいと思う事を信じて、諦めず、こつこつ続けて行くだけなのです。そして、それが自然の摂理から離れていなければ、何があっても「楽しい」と思える様になる筈です。
明日伐られる木でも、新芽を出し、花を咲かせ、今を生き、何の不安も悲しみもありません。その姿は私に感動を与えてくれます。私はそういう感動に包まれているのです。だから、開高先生のお言葉を、のうじょう真人流に少し変えさせて頂いて、私はここで今を楽しむ事にします。
「明日世界が滅びるとしても、今、私達はリンゴの“種”を播く」