時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「朝の深呼吸 スハースハー」

前々回持病のことを書いたら、友人達を酷く驚かせてしまった様です。でも言い換えるとそれだけ私は丈夫で健康に見えたと言うことで、それならこれからもきっと大丈夫だと妙に自信を持ってしまいました。病気の経過はおいおい書いていきたいと思います。心配お掛けしてごめんなさい。
いよいよ2015年も残り1ヶ月です。色んなことがあり、色んな別れがあり、色んな人に出会え、色んな思いがありました。でもどんなに辛いことでも、それは私のかけがえの無い一部だと思い受け止めていこうと思います。
もう直ぐ暦の上での春も終わりです。パタゴニアは新緑の美しい季節です。果樹の花が終わり、今はルピナスエニシダ、ケシ、ローズヒップそして名前も知らない花達が咲き誇っています。そんな中の一つ、玄関横のつる科の植物の花が満開です。引っ越した時は、私の背より小さかったのですが、どんどん伸び、今は屋根の上に広がっています。この子達、早朝日の出直前が一番好きらしく、その時間に玄関を出ると甘い香りがあたりいっぱいに広がっています。甘くて爽やかで、その香りに包まれ、私は毎朝深呼吸をし、幸せな気分で身体中が満たされます。面白いことに日中は殆ど香らないのです。蜜蜂も来ません。
花の色も形も大きさも、慎ましやかで儚い感じがします。
屋根の上に大きく広がって、パタゴニアの真っ青な空を見つめています。玄関横の私が見える部分にはつるが伸びているだけで、殆ど花が咲いていません。だから以前の様に花を楽しむことは減り、少し寂しい気もしますが、早朝外へ出て薄明かりの中でこの香りに包まれると、たとえ見えなくてもこうして今同じ時を同じ場所で生きているんだなあと感じることができます。
変わらない事なんて何も無い。ずっと変わらず大切に取っておきたい思いや時間や関係や状況はあるけれど、それにしがみついていたら苦しくなるだけかもしれません。
必死に手の中で握りしめている何かを素直に手放せたら、思わぬ方向へ良く変わっていく筈なのです。でも私はまだ手を開く勇気に欠けてます。
「大丈夫。心配しないで。」
優しい香りで空に向かって咲く花達が言ってくれます。今年はあと何日くらいこの香りに包まれることができるでしょうか。だけど先の事なんて考えず、今この時この瞬間に幸せを感じていれば、
良いだけなのかもしれません。だってこんなに大きくなるなんて想像もしなかったけど、ずっともう何年も、私はこの時期、早朝にこの子達の香りに包まれて来れたのですから。
握りしめている拳の一つを、力を抜き、少しだけほんの少しだけ開く勇気をこの子達からもらっています。

アルゼンチンは大統領選があり、12月10日から新大統領に変わります。
インフレ、物価高、治安悪化に加え、国内産業保護の輸入規制があり、私が日本から送った数冊の本が税関に止められました。受け取るためには輸入手続きが必要で、それが非常にややこしく、泣く泣く受け取り放棄しました。こんな住みにくいアルゼンチンから少しでも変わってくれることを願っています。