時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「もう昼ですよ ムニャムニャ」

私は頭がかたいと良く言われます。
硬い?固い?
物がぶつかっても頭に怪我した事がなく平気です。またそれとは別に柔軟性が無く、機転も利かず、頑固で相手をうんざりさせる事も多いそうです。
年とともにだいぶ柔らかくなってきたつもりですが、それでも如何しても譲れない事もあります。それは動物や自然を人間の都合で間違って伝える事です。
動物を擬人化する事は良いとしても、牛に上前歯があったり、蜜蜂の羽根が2枚だったり、バッタの脚が4本だったり…。
そんなのどうでも良いじゃん。固いこと言うね、と言われますが、単に間違えている訳ではなく、見た目がグロテスクできみ悪がる人が多いから変えたと聞いた事があって、ますます許せないと思ってしまったのです。
動物や昆虫に限らず、植物に関しても無関心な事は多いようで、日本のドラマを見ていたら、雨の夜に大きく咲いたタンポポの花を摘むシーンがあって、タンポポはどこにでもある身近な花だと思っていただけに驚きました。
そう言う私も自然に関しては知らない事が多いです。だから余計に間違いを信じてしまう可能性がある嘘や演らせは嫌なのです。
集中力や観察眼が乏しく、何時もぼんやり過ごしている私ですが、それでもここで暮らす様になって自然の営みに多少は気づき、感動できる様になりました。
天気予報からではなく、木々が少し太って新芽を出すぞと意気込む気配や、霜の降りる大地を水仙が持ち上げて伸びようとする元気から春を感じます。
そして思い込みなんでしょうが、木からも花からも草からも、生命の輝きが伝わってくるのです。
今年のパタゴニアは寒い春となっています。ここ数日快晴で日中の気温が20度を超え半袖を出しましたが、一昨日からの雨でまた一気に気温が下がりました。アンデス山脈に雪が降り、我が家も一日中薪ストーブを焚いています。折角芽を出したエンドウや人参、キャベツ達もさぞ驚いている事でしょう。風に乗ろうと準備していたタンポポの綿毛も雨に濡れて可哀想です。

ところで、私が毎朝楽しみにしている事があります。それは畑の隅に咲いている花達の目覚めを見る事です。この子達、20年前に売り物にならないと親指の爪ほどの大きさしかない球根を一握り貰い植えたものです。最初はなかなか花が咲きませんでしたが、気がつくと何倍にも増え大きくなり、可愛い花を咲かせる様になっていました。そして面白いのが、とても朝寝坊なのです。朝日が当たってもなかなか目を覚まさず寝ていて、昼近くになってやっと起き出します。寒いのも雨も苦手なのか、ここ2日ほとんど花を開きません。
何の手入れもしないのに、こんなに大きくなり、どんどん増えたのでとても強い子達だと思います。「寝る子は育つ」これは花の世界にも共通している事なんでしょうか。
日本にいる頃は植物にほとんど関心が無かったのですが、この歳になって、気がつくと一人で花や木に話し掛けている自分に驚きます。でもそれを恥ずかしいとは思いません。

犬や猫を見捨てていく事はできません。そして今の私には20年以上一緒に過ごし、私を育み守ってくれた農場の木や花たちも置き去りには出来ません。
焦らずゆっくり後継者が現れるのを、この子達と一緒に待つ事にしています。