時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「森に響くフクロウの声が聞こえるように」

もう何年も前、まだ周りにこんなに家が無く人口の少なかった頃、我が家の林にはフクロウが住んでいました。
朝の散歩の途中、南極ブナの枝に止まった大きなフクロウが、瞬きもせず私を見つめていた事がありました。
生まれて初めて見た野生のフクロウでした。その時
「ああ、私はこの子と同じ場所と時間を共有しているんだ」と、感動で心が震えました。

15年ほど前から増え始めた人口はとどまる事を知らず、森も林もどんどん消えていきました。
私を見つめていたフクロウもその仲間たちも、もう何年も姿はもちろん気配さえ感じる事はありません。

でも私は初めて出会ったあのフクロウの威厳が忘れられず、時々粘土でフクロウを作ります。私の焼き物は自己満足の世界です。お習い事の域を出 ていません。でもそれだけに自分勝手に楽しく作る事が出来ます。思いのままに作ったフクロウ達は、「これからここで一緒に生きていこうね。」 という思いを込めて我が家の林のあちこちに置いていました。

ある時、家に来た友人がそのフクロウ達を見てとても気に入ってくれました。焼き物に殆ど興味を持たなかった人だったので意外でした。あまり褒 めてくれたので、嬉しくなって彼の誕生日にフクロウを作って贈りました。それは誰かを思って作った最初のフクロウでした。
それがきっかけになって、私は誰かの為に、誰かを思って、気持ちを込めてフクロウを作るようになりました。こちらではフクロウは智恵のシンボ ルと言われていますが、日本では

・福来朗…朗らかに福を呼ぶ。
・福籠…福が籠(こ)もる。
・不苦労…苦労知らずでいられる。
・福老…老いて福。楽しく長生きできる。
・梟…首が良く回るので商売繁盛。夜目が利く事から先見の明がある。

など色んな意味がある事も知りました。

のうじょう真人で生まれたフクロウ達。
この土地の粘土で形つくり、ここで育った草木の灰や見つけた石で配合した釉薬を掛け、この土地で育った松で焼いたので、作ったのがへなちょこ な私でも、パタゴニアの魂を持った立派なフクロウだと思います。

まだ私には彼らの声は聞こえません。でもここにはフクロウ達の声が響いている筈です。そしていつかきっと、その声に誘われて野生のフクロウが 戻って来てくれると信じています。