時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「エルボルソン ワールドカップ事情」


前回に引き続いてワールドカップのお話。

サッカーの国アルゼンチンに暮らしていると、個人的には興味がなくても、全く
関係なく生活するという訳にはいきません。

30年くらい前ですが、手術を受けるため麻酔をして手術室に運ばれた知人が、
「彼女は緊急じゃあないから」との医師の一言で突然手術延期に。理由はワール
カップ開催中で、ちょうどその日がアルゼンチンの試合の日だったから。こ
れ、嘘の様な本当のお話です。15年前にこの話を聞いた時は正直信じられませ
んでしたが、アルゼンチンに暮らして16年目の今は、「そんな日に手術の予約
をしたのが間違いだったねえ。」と納得いきます。

流石に現在では、そこまで露骨なことは無いとは思いますが、それでも似たよう
なことは一杯あるでしょう。

ワールドカップ開催中アルゼンチンの試合は、公立の小中学校は授業中でもサッ
カー観戦となって、学校で全校生徒が観戦するそうです。机も満足に揃っていな
いマジンの田舎の小学校にさえ、衛星テレビはあるんですから。観戦したく無い
子は、その時間は学校に来ないそうです。個人経営の商店の多くは閉まっていま
すし、人を雇っている店は、従業員が勤務中でもテレビ観戦できる様にするのが
義務のようなものです。市役所や郵便局などでも、当然の権利として勤務中にテ
レビ観戦しています。

レストランや喫茶店も大型テレビを入れて、サッカー観戦が出来るようにしてい
ます。各家庭にテレビが普及した現在でも、アルゼンチンの試合の時は皆でわい
わい騒ぎながら観戦するのが好きなようです。こんな時外国移住者、特にアルゼ
ンチン対戦相手の国出身者は同席しない方が賢明でしょう。また心では対戦国を
応援していても、決して素振りを見せず「アルゼンチン頑張れ!!」と応援しな
くてはいけません。

そんな訳で、私たちは騒ぎに巻き込まれないため、ワールドカップ開催中は極力
町には行かないようにしています。特にアルゼンチンの試合の日は要チェックで
す。

ところが、6月17日木曜日は運悪くアルゼンチンの試合日と日本語教室個人授
業の日と重なってしまいました。でも、教室を借りている市立文化センターは、
町のはずれにあるからそんなに影響は無いだろうと高をくくっていたのが間違い
でした。何時も通り10時少し前に文化センターに行った私は、入り口に鍵が掛
かっていたので「愕然」としてしまいました。事前に何の連絡もありませんでし
た。例え公務員がテレビ観戦をしていても、業務中止という事はありません。で
すから生徒のメルセデスも閉まった文化センターに唖然としています。

「どうしようか・・・今日は休講にする?」「でも折角来たんだしね・・・」

メルセデスも彼女の家族もサッカーにはそれ程興味が無いので、この事態を想像
できなかった様です。幸い試合は8時半からで、10時半には終わる筈です。そ
こで10時半まで待っていたら、秘書の女性が歩いて来るのが見えました。試合
が終わって直ぐに来た彼女は、なかなか仕事熱心と感謝しなければいけません。

外で寒さに震えながら待っている私たちを見て、最初の一言。何だったと思いま
すか?

「アルゼンチン4対1で勝ったわよ〜!」

私も長年のアルゼンチン生活で鍛えられました。すかさず返事しましたよ。

「おめでと〜〜〜〜!」

そうです。アルゼンチンの試合の日に、観戦もせずに授業しようとしたのが間違
い。公立施設だから開いていると思ったのが間違い。悪いのはワールドカップ
甘く見た私の方です。

さて、ワールドカップ終了まで、何事も無くすみますように・・・。

最後に、これはあくまでも私の住む町の事情で、他の都市や町の事情は分かりま
せん。お間違えの無いように。

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