時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

どんぐり

nojomallin2006-06-29

秋から初冬にかけて、町に下り時間が有ると、私達は市役所に行きます。けれども建物の中には入らず、駐車場横の大きな「ミズナラ」に直行します。のうじょう真人の毎年の大切な行事の一つである「ドングリ拾い」をするためです。
これは1996年から約2年、のうじょう真人で暮らした義父の残していった行事です。
栃木の田舎育ちの義父は、始めてここを訪れた時、動植物の種類の少なさにとても驚いていました。一見緑に見えるこの土地の、自然の脆さ、若さを見抜いていました。
「土地を肥やすには落葉広葉樹が良い。材としても使える。」
建具屋でもある義父は、来た時から目を付けていた市役所のミズナラが「どんぐり」を落とす季節になると、町に行く時は袋を持参して、一人でせっせと拾っていました。そしてそのどんぐり達を一つ一つ丁寧に農場中に埋めていったのです。冷たい雨の降る日も休まず続きました。翌春芽を出したどんぐりを数えたら7000個近くありました。
「ここは町よりずっと寒くて厳しいけど、50年もしたら結構大きくなるだろう。」
70歳の義父の言葉に私はとても感動しました。
「あんたら今いったい年幾つ?」
「そんなに値段は高くないんだから苗木を買ったら?」
「ここではこの木は生長が遅いし割りに合わないよ。」
殆どの人がこのミズナラの子供達を見て笑うか、全く無関心です。10年近く経った今でも、私の背丈より高い木は数える程。冬に野ウサギに食べられたりして、殆どが30cmにも満たない高さです。でも私達はこの子達が自慢です。
正直言って、急激な周りの人口増加とそれに伴う騒音、ゴミ、伐採問題で、時々ここを逃げ出したくなります。でも、逃げ出す事が解決では無いと、このミズナラの苗木を見て思い直します。
目に見える地上では30cmに満たなくても、根は大地の下に深く深く伸び、どんなに厳しい冬でも、夏の干魃でも、野ウサギに食べられても、春には新芽を延ばす力を持っているのです。
私は種を播くことが出来る。のうじょう真人の自然の営みに参加する事が出来る。
種を播いて播いて播き続けて、私自身も深く根を伸ばして行こうと思っています。