時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「私の居る場所 シンシン」

若い頃は、今考えるとつまらない事にイライラしたり、落ち込んだりしてよく具合が悪くなっていました。そうすると決まって偏頭痛が起きました。
ここ数年、具合が悪なるとか寝込むという事が有りませんでしたが、最近、状況の急変化とそれに伴う諸々の問題で眠れない夜が続きました。夜中に目覚め眠れないと、概して人はろくな事を考えないものです。私の場合も例外ではありません。人間の一番醜い感情が心に湧き上がってきて、人を憎んだり怨んだり、後悔したり。
若い頃は、そんな感情が湧き上がる自分にうんざりしていました。
でも今は違います。嫌な感情に負けそうになると、何時も腹式呼吸をしながら、心に思い浮かべる風景があります。
それは20年以上暮らしてきたこの農場の林です。そして私はその林の中で風に木々がザワザワ揺れる声を聞くのです。アカゲラの木を突く軽快な音。ハチドリのチーチーさえずる甲高い声。何時も私についてくる犬の姫とパクも側に来ています。
たったそれだけ。でもそれだけでとても静かな気持ちになれます。
この林は原生林のシプレス林です。日本でいうと檜の仲間の針葉樹です。100年ほど前に大火災がありその後に再生した林なので、木の一本一本が細く少し心細い感がありますが、農場の中でも私が一番落ち着ける場所なのです。
写真が無いので比べようがありませんが、この20年で随分と成長したはずです。それは私の心の成長と同じなのでしょう。
10年ぶりに日本に帰国した時、とても驚いた事がありました。それは実家の周りの木が少しも成長していなかった事です。池の周りの桜も、街路樹も、公園の木も10年前とほとんど変わっていなかったのです。愛知県の気候なら、木の10年の成長は、パタゴニアのこことは比べ物にならないほど早いはずです。実家の周りが山も無い住宅街だという事も関係あったのかも知れませんが、剪定されて大きくなれ無い木を見て、とても可哀だと感じました。
大きく伸び伸びと育つ木とともに居られる事。それは人としてとても大切な事の様に思えます。
私は私の居るべき場所を見つけられました。それはこれからどこへ行っても何をしていても変わらず心にあり続けるでしょう。
シンシンと安らかな気持ちになれる私の場所。
きっと全てが上手くいく。皆んなが笑っていられる。幸せになれる。そう信じる事が出来ます。