時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「言葉の面白さ」

言語学も教育学も勉強したこと無く、当然日本語教師の資格も無い私が日本人とい うだけで、例え数人であってもアルゼンチン人に日本語を教えてしまっているのだから恐ろしいことです。アルゼンチン日本語教育連合会さん主催 の講習会に参加させて頂いたり、先輩日本語教師の方々にご教授頂いたりしていますが、私のさび付いた頭では苦労の連続です。それでも辞めない のは、こんな田舎町で「日本語を勉強したい」と通ってきてくれる生徒さんが居るからです。そして、何よりも私自身が面白い、楽しいと感じてい るからです。
スペイン語には動詞の変化が多いです。過去現在未来は勿論、主語によっても変わ ります。スペイン語を勉強し始めた時「日本語は動詞変化が少なくて楽〜。」なんて思ったり言ったりしていましたが、実は日本語の動詞変化って 物凄く複雑だったのです。初めて日本語に接する人の場合、「飲みます」を覚えても「飲む」「飲んで」「飲まない」「飲める」等々全く分からな いのです。ちなみに「飲みます」から「飲む」の変化法則を説明した後「来ます」「着ます」「切ります」「します」「食べます」で説明してみて 下さい。それぞれ違うので泣けてきますよ。テキストを見ながら、かなりこじつけ的な事や、例外が多いけれども、よくこの法則を見つけたと感動 しています。って、こんな基本的なことさえ知らなかった私が情けなさ過ぎるだけですが。
ところで、私が一番面白いと感じているのは日本とアルゼンチンの物の見方や感じ 方が言葉に表れていることです。例えば「言い訳をする」。この的確なスペイン語(アルゼンチン語)訳が見つけられません。「言い分がある」 「理由を説明する」的な言葉はありますが、あまり良い意味で無い日本的な「言い訳」の解釈がどうも無いようなのです。「恩に着る」「恩着せが ましい」の直訳も見つけられません。また「幸せ」の説明も困りました。「喜び」「楽しい」「嬉しい」「平和な」はすぐに分かって貰えました が。みなさんなら「幸せ」を使ってどんな例文を作りますか?私は「美味しいものを食べて“幸せ”と思いました。」「家族が健康で“幸せ”で す。」と作りましたが「幸せ」の微妙な意味は分かってもらえませんでした。「寂しい」も「悲しい」「たいくつだ」はすぐ分かりましたが「一人 で寂しい」と言っても理解できなかったようです。
また色の形容詞化も例えば「黒」は「黒い」になり「黒い犬」。「赤」は「赤い 家」。「白」は「白い雪」。で生徒さんが「これは緑いノート」と言って「どうしてだめなの?」と聞いてきましたが、その場ですぐに答えられま せんでした。
「長」で「病院長」「校長」「社長」「市長」のあと「県長」「国長」とどうして 言わないの?と聞かれ、この時は思わず「そうだよね〜!どうして言わないんだろうねえ!」と同感してしまいました。
最後に、合気道初段で責任感や信頼がアルゼンチンよりも日本的なとても真面目な 生徒さんとの会話です。
私「侘び、さびっていう言葉聞いた事がありますか?」
生徒さん「勿論知っているよ」
私「凄い!!意味分かりますか?」
生徒さん「勿論」
私「スペイン語でどうやって説明するんですか?」
生徒さん「それはね、とてもPICNTE(ピカンテ)」
私(そうか・・・ピカンテは辛いという意味のほかに精神的なことでも使うん だ・・・)
生徒さん「そして緑色だ」
私「???」
生徒さん「すしには欠かせない。非常に美味しい。大好きだ。」
私「わび、さび?」
生徒さん「そうだ“わさび”。ああ、食べたくなってきた・・・」
本当に日本語って難しいけれど面白いです。