時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「一番大切な事」

前回に引き続き焼き物展示会のお話。
私は今回の展示会会場に行っていませんので、その熱気や雰囲気が自分の経験として残こらず、あまり良い報告が出来ませんでした。けれども一通のメールが私にとても大切な事を教えてくれました。ご本人の許可を頂いたのでそのまま転記させて頂きます。

こんにちは。 お元気ですか。
先日ブエノスでの焼き物展示会のとき硯を購入しましたFです。
使ってみての感想を話したかったので 初めてのメール 入れさせてもらいます。

だいぶ固く焼かれていて(こういう表現でいいのでしょうか。)使える墨になるのが早いです。大きさ、色が気に入り墨をするのも楽しいです。はじのほうからすった墨の黒い色がわずかながらしみこんでいってるの でこの後どんな風に変化するか楽しみです。

湯飲みはまだ使ってませんが いただいたぐい飲みは 奮発して日本酒を買い使わせてもらってます。 外側は黒ですが 中に暗い青の色があってこれもお気に入りです。
(中略)
新作できあがりましたら掲載ください。 萩焼の色が出ましたらうれし いで す。
(後略)

この方は6年前の展示会で茶碗を購入して下さった方です。今回わざわざその作品の写真まで送って下さいました。改めて見ると、焼きが甘く、発色も青が出ていません。しかも釉薬の一部がはがれてしまっています。当時と今では私たちの焼き物に対する感性が違っているので一概に比べることは出来ませんが、今ならその作品は展示会には持って行かなかったでしょう。それでもあの当時の一生懸命作った気持ちが蘇り、とても懐かしくなりました。そして気に入って可愛がって頂いている様子がその 茶碗を通してひしひしと伝わってきて、嬉しくて涙が零れそうになりました。と同時に今回の展示会の表面しか見ず、大赤字で大変だったとか、評価も無かったなんていじけていた自分を大いに反省しました。

のうじょう真人で生まれた器が、何年もこうして大切に使って頂いている、それ以上の評価があるでしょうか。パタゴニアの土が、鉱物が、炎が生み出した焼き物。その過程に参加できた自分はなんて幸せなんだろう。私はただ、自然の力を信じて一つ一つの作品を心を込めて作れば良いだけだったのです。
それだけが一番大切な事なのです。

そう思ったら、買ってくれた友人たちも、きっとその作品を気に入ってくれたからで、決して優しい義理人情だけじゃあなかったと思えました。
「この器にどんな料理を盛ろうかと楽しみです」とメールをくれた友人もいます。
生活に追われ、損得勘定を考えてしまうことが多くなったけれど、一番大切なことは決して忘れてはいけないと肝に銘じました。

展示会を開催できて良かったです。改めて、心をこめて、全ての方に、 全ての作品たちに。
「本当にありがとうございます」