時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「薪ストーブ」

日本の友人が時々、日本の番組やドラマのDVDを送ってくれます。それを見るのは、テレビの無い私達には、現在の日本を知るとても貴重で楽しい時間です。

先日は日本で田舎暮らしを始めた人達の特集を見ました。15年前、農業と田舎暮らしをしたいとアルゼンチン移住を決めた時、日本の田舎は全く視野に入っていませんでした。でもパタゴニアで暮らす内、日本の植生の豊かさ、風土に育まれた独自の文化に気付かされ、日本の良さがどんどん分かって来ました。年を取ったからでしょうか、習慣、食生活も日本の方がずっと住み易いと感じてしまいます。

特に私達が羨ましかったのは、日本の昔の農家を買い取って暮らして居る方でした。周りの山の緑の深さ、山菜の多さ、虫たちの鳴き声、川の清流。裏山は竹林。土間の台所には竈(かまど)があり、室内には囲炉裏までありました。

実は私達は土壁の家を作って、そこに囲炉裏を作るのが長年の夢なのです。でも一年分の薪集め、畑作り、食品加工、柵や倉庫の修理、木工、焼き物、そして昨年からはパタゴニア砂漠化防止と緑化活動が加わり、やりたいこと、やるべき事が山積みで、家作りまではなかなか手が回りません。材料は買わず機械は使わず、自分達の農場の土で、人力で作ると決めているので尚更です。

「ああ、いいなあ。憧れるなあ。」とその夜はDVDを見ながらため息をついていました。

で、翌朝、夫は火打ち石でおこした火で(マッチはあるのですが、彼の趣味です)薪ストーブを点け、私は自家製天然酵母で発酵させたパンをその薪ストーブに付いているオーブンで焼き、ストーブで沸かした湯で二人でマテ茶を飲み、昼食用の南瓜をストーブの上で自作の土鍋でことこと煮るという当たり前の朝を迎えました。

そしてストーブに薪を放り込む時、「あれ?これって、最高に楽しい暮らしじゃない!」と思ったのです。

私は日本人だから日本の習慣がしっくりくるけれど、ここアルゼンチンでだって、工夫する面白さはあるし、作り出す楽しみも沢山あると今更ながら気付いたのです。そして日本人であることを生かして日本語を教えたり、豆腐や味噌を作り地元の人に喜んで貰ったりと言う、思わぬ楽しさも経験出来たのです。

パタゴニア暮らしで日本の良さに気付いた事は良かったと思います。でも、パタゴニアで暮らしているから感じる喜びとか感動も、とても貴重なものです。嫌な事、うんざりする事、頭に来る事だって沢山あるけれど、それを一つ一つ解決していく事にパタゴニア暮らしの面白さが有るとも言えるのです。

今の暮らしが好き。大好き。好き好き好き。

これからもその気持ちを忘れないで、毎日を大切にしようと思います。
_____

写真解説


この薪ストーブは我が家のものではありません。ニョルキンコという村の少し先にある先住民マプーチェの方の家にあったものです。「どうしてこんなに光っているのか?」とその方に聞くと、「石」で磨くとおしゃっていました。それから訪問する家で薪ストーブを見るたびに同じ質問を繰り返しました。すべて答えは同じで、「石」でした。

それ以来、僕たちの日課の一つに薪ストーブ磨きが加わりました。現在はまだ彼らのストーブほど光っていませんが、以前よりは遥かに光ってきました。いろいろな石で試していますが、日本の砥石、荒砥と中砥が合うようです。